Who is Stik? コラム Part 1 by 保科好宏(ロック・ライター)
Pic by Yui Ioroi
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保科好宏氏による、英国人アーティストStikに焦点を当てたコラムを3回に亘ってお届けします!
保科氏は、ロック評論家である一方、今年9月に行われたStikの日本ツアーのコーディネートを手掛けた、日本で最もStikの素顔を知る人物の一人です。ビッグイシュー日本版の表紙を飾るなど日本でも注目度が急上昇しているStik、そんな彼の作品の魅力を保科氏が余すことなく語っているので、是非お読み下さい。
保科氏は、ロック評論家である一方、今年9月に行われたStikの日本ツアーのコーディネートを手掛けた、日本で最もStikの素顔を知る人物の一人です。ビッグイシュー日本版の表紙を飾るなど日本でも注目度が急上昇しているStik、そんな彼の作品の魅力を保科氏が余すことなく語っているので、是非お読み下さい。
Stik is One And Only
Stikというアーティストは、一般的な他のストリート系アーティストとはひと味もふた味も違う、実に不思議な魅力を持つクリエイターである。というのも彼の絵は、何かストレートなメッセージを投げ掛けたり問題を提議して見る者に何かを考えさせるわけではなく、またストリートに残された巨大なミューラルも決して威圧感を与えることなく、また作品としての技術力やアイデアの奇抜さで見る者を唸らせるわけでもない。そういった押し付けがましさが一切無い作品ながら、一度見たらスルッと記憶の奥深くに入り込んで忘れられず、瞬時に見る者の心を和ませ癒してくれていたことに気付かされるのである。つまり他のアーティストとは作品の質やベクトル、受ける印象など、全て従来のストリート・アートとは趣を異にする、ワン・アンド・オンリーの存在なのである。
Pic by Reiji Isoi
そもそも僕がStikの存在を知ったのは今から3年ほど前のこと。ebayのオークションに出品されていたシルクスクリーン・プリントを見掛けたのが最初だったと思うが、その時はシンプルと言うよりミニマルな、ジュリアン・オピーの作品を更に簡略化、記号化したような奇妙な絵だなというものだった。当然ながらその時はまだ彼の絵の本当の魅力に気付いておらず、風変わりなアーティストが出てきたな、くらいにしか思っていなかったのだが、それからすぐにネット上のあちこちで彼の作品を目にするようになり、いつの間にか気になって仕方がない、そんな存在になっていった。とは言え日本では彼の作品はまったく出回っておらず、気が付いたらebayではプリントも気軽には買えない値段となり、いつしか"Next Banksy"と特別な形容詞で語られる、UKストリート・アート/アーバン・アート界のブライテスト・ホープ、注目アーティストとしての地位や存在感を高めていったのがこの1年のことだった。
Pic by Yoshihiro Hoshina
それが突然、神保町のギャラリーかわまつのビルに来日中のStikがウォールペインティングするという話を聞いたのが5月のある日のこと。僕はすぐにギャラリーに駆け付け、東京で初めてのStikmanミューラルが完成するのを最初から最後まで見学した。僕にとっては、これまでニック・ウォーカーやヨーロピアン・ボブ、スタティック、マーティン・ワトソン等、海外のストリート・アーティストが東京や大阪でウォール・ペインティングする現場に何度も立ち合っていたので、どうやってミューラルが完成していくのかは分かっているつもりだったが、Stikの場合は全く趣を異にするのに驚かされた。それは多くのストリート・アーティストがステンシル(形を切り抜いた厚紙)を使ってスプレーで短時間で仕上げていたのに、Stikはステンシルを一切使わず全てをスプレーによるフリーハンドで描いていたからだ。
もともとストリート・アーティストがステンシルを使う理由は、基本的にイリーガルなグラフィティを素速く綺麗に仕上げる為の手段だったわけだが、Stikの場合は高さ2.5メートルほどのミューラルを仕上げるのに約3時間ほど掛かっていたのに意表を突かれた。あれだけシンプルな絵が、いくらフリーハンドとは言え3時間も掛かるなんて、、、。それは制作現場に立ち合ったことがある人なら分かると思うが、身体や腕の一本の黒い線を描くにも、何度も何度も白のスプレーで消しながら、彼の頭の中にある理想のラインを求めて繰り返し描き直すからで、顔のポイントとなる目に至っては、どの位置に描くかで全く異なった表情になることから、神経質なくらい何度も描いては離れて見てを繰り返して手直ししていく、その制作過程や姿勢に大きな感銘を受けたのだった。
Pic by 静岡市クリエーター支援センター(CCC)
そしてこの5月の来日時、Stikは静岡で「静岡ストリートアート・プロジェクト」に参加し、チャリティーでのライヴ・ペインティングや巨大なミューラルを静岡に残したことは、既にこのストリートアート・ニュースでご存知と思うが、それから一ヶ月後、今度はStikとロンドンで再会し、9月の再来日時に大阪、京都まで同行することになろうとは、その時はまだ予想もしてなかった。(続く)
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